巨星墜つ ~ 理想の国家像を追い求めた石原慎太郎氏の死を悼む
衆議院が1日、中共による新疆ウイグル自治区などでの人権問題に関する決議、名付けて「人権状況決議」を採択した。何もしないよりマシという人も多いと思うが、この決議は、日本が中共を名指しできず、人権侵害という言葉すら共通認識として持てないことを国際社会に晒した、恥ずべき決議であると考える。怒りで体が震える思いだが、この件に関しては明日以降に書こうと思う。何にもまして今日は、他界した石原慎太郎氏について思うところを書きたい。
昨日、石原慎太郎氏の訃報が日本を駆け巡った。享年89歳。ポピュリズムが政界全体を覆う今の政治状況にあって、石原氏は民意に媚びることなく、おもねることもない政治家として稀有な存在だった。持論の展開のためには、メディアを敵にすることもいとわない。叩かれることを承知で物言いができる人物は、政界にはもういない。最も近い存在は麻生さんくらいだろうか。
もう11年も前に書いたエントリー「石原慎太郎のずば抜けた行動力」から、石原氏の功績を紹介してみよう。石原氏の盟友、故佐々淳行氏が著書「彼らが日本を滅ぼす」で紹介したエピソードだ。
この日(2001年9月10日)のペンタゴンでの横田返還交渉の席上、石原都知事は、アクリル樹脂製の東京都空域の立体模型を持ちだし、まず「羽田空域」を中央において、それに「成田空港」の模型をかぶせ、さらに「厚木」「横田」と透明な模型を重ねていって、ウォルヴォヴィッツ国防副長官に「いかがです?一目瞭然でしょう」と示したのである。
実に説得力のあるプレゼンテーションだった。
「まず、空域管制圏を大幅に日本に返還していただきたい。次に、日米合同の貨物機発着空港、さらに日米共同の民間空港と空軍基地にしていく」
という構想を述べた。
本来なら、この交渉は外務相なり国土交通省なり防衛庁(当時)がやるべきものだった。
ところが、日本政府はアメリカに向かって「NO」と言えない日本だったから、こんな大胆な提案をする者は悲しいかな、石原慎太郎氏以外にいなかったのである。
ウォルヴォヴィッツ国防副長官は、実に真剣に石原提案を聞き、善処を約束した。佐々淳行著「彼らが日本を滅ぼす」より抜粋
このような交渉によって、横田の空域20%は、米国より日本に返還された。そのことによって羽田の空域が大きく広がり、第三、第四滑走路の建設が可能になり、国際線が飛べるようになった。今、羽田空港を国内のみならず、国際線のハブたらしめているのは、石原氏の尽力によるものなのだ。石原氏は当時、米国の識者から「角の生えた反米主義者」と称されていたという。そんなことは意にも介さないのだ。
私はこのエントリーで、石原氏のことを「行動力で打破するダイナミズム」を持った政治家だと評した。「尖閣諸島を東京都が買う」という発表をしたときは、度肝を抜かれる思いだった。石原氏の尖閣への思いには特別なものがあった。その思いの背景は、氏の旧制中学時代からの盟友で、石原氏のことを「無意識過剰」と称した江藤淳との共著「断固「NO」と言える日本」に書いた一節からうかがえる。
尖閣列島周辺の海底に油田があるという話が持ち上がって以来次々と妙なことが起こった。返還前のことですが、アメリカのメジャーの石油会社が、時の佐藤首相に、外相がらみで彼らによる試掘を持ちかけてきた。佐藤首相は自国日本のことだからといってそれを退けた。
すると彼らは同じ話を台湾と北京に持ち込み、「あの島々は本来なら中国の領土の筈だ」とそそのかした。その話に乗った中国は突然、武装した漁船団を送り込み、威嚇しながらあれらの島々の領土権を主張しだした。北京がそういいだせば台湾もまたいきがかり上、こちらもあれらの島々は台湾に帰属すべき領土であると主張した。
日本政府は困惑して米国に仲裁を依頼したが、米国は尖閣が日本の領土だから日本に返還したにもかかわらず、「当事者同士で話し合うべきだ」と逃げ、日本のためには一切口をきかなかったそうだ。石原氏のあの「尖閣諸島買収構想」の背景には、その事態を目の当たりにしたときの忸怩たる思いがあったのだろうと拝察する。
その他、エピソードを上げ出したらキリがない。“石原慎太郎タイプ”の政治家は、もう出てこないだろう。追い求める国家像を、妥協せずに希求し続けた政治家として、石原氏の存在は多くの人の記憶に刻まれたはずだ。下の動画は石原氏自ら「国民への遺言」と称した1時間40分の国会質疑。国会論戦とはこうあって欲しいという見本である。
石原慎太郎氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
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